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名古屋高等裁判所 昭和25年(ネ)203号 判決

原判決中「原告その余の請求を棄却する。」との部分を除きその余を取消す。

被控訴人等の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする。

二、事  実

控訴代理人は主文第一項乃至第三項同旨の判決を、被控訴人等代理人は控訴棄却の判決を各求めた。

控訴代理人は当審において左のように附加陳述した。

元来本件農業用施設の買収申請者は水利施設の溜池及び溝の敷地である本件土地(別紙目録記載の土地)を使用する権利を有し右土地の買収を行わなくともその利用自体には別段支障がない筋合であるけれども従前のまゝではこれを利用するについて管理保存の費用の外小作料に相当する所謂弁米なる高率の使用料を支払わなければならない実状であり自然その負担は生産コストに加算されることとなり自作農の経営に不安定を来たしその労働の成果は中間で搾取せられることに帰着する。このことは単に右買収申請者(三名)のみに止まらず本件農業施設の受益地区内において耕作に従事する多数農民に共通の事情である。さればこそその利用者の大部分の者がその買受を希望しているのである。前記のような事情を改善するために本件農業用施設の買収が必要となるのである。従て内城田村農地委員会が本件買収申請を相当と認めたことはなんら違法とすべきではない。

本件農業用施設の受益地区内所在農地を売渡されて自作農となつた中西秋蔵、小岸秀一、小岸乙吉は該施設の共同利用者である小岸大三外十四名と共に発起人となり昭和二十六年一月二十九日三重県知事に対し名称は「下久具水利施設農業協同組合」目的は「組合員が協同して農業用水利施設の管理に当りその農業の生産能力をあげ経済状態を改善し社会的地位を高めること」組合員資格は「内城田村大字上久具に所在する木屋谷溜池の受益地区内において耕作に従事する農民」とする農業協同組合の設立認可申請をなし同知事は同年二月七日これに対し認可を与えた。そこで右組合は同年二月十日自作農創設特別措置法第二十九条同法施行令第二十四条第一号によつて内城田村農地委員会に対し農業用施設である本件土地の買受申込をなし同委員会はこの申込を容認して同月十三日右組合を同法施行令第二十四条第一号の団体と指定することを議決すると共に同組合に対する本件土地の売渡計画(対価合計金五千四百二円五十八銭売渡期日昭和二十六年三月二日)を議決決定の上同日右団体指定の旨を告示しかつ該売渡計画を公示して同年二月十三日から同月二十三日迄これを縦覧に供し引続きその売渡手続を進めている次第であり、前記のような目的の組合の育成に資する前提として内城田村農地委員会が本件土地の買収申請を相当と認めて買収計画を樹立したことは少しも違法とすべきではない。

被控訴人等代理人は控訴代理人の右主張に対し

「たとい控訴人主張のような農業協同組合が設立せられてこれに対し本件土地の売渡計画が樹立せられたとしても右組合は本件土地の売渡をうけることのできないものである。何となれば右組合は自作農創設特別措置法施行令第二十四条第一号に規定する「これらの者の組織する農業協同組合」に該当しないばかりでなく売渡計画の基本たるべき本件買収計画の適法性が争はれている以上その買収計画は未確定のものというべく、しかるかぎり進んで本件土地の売渡計画を樹てることは不能であるからである。」と反駁し、訴外中西秋蔵、小岸秀一、小岸乙吉が本件附帯買収の申請をする資格がないことの事由として「自作農創設特別措置法(改正前)第十五条第一項には『第三条の規定により買収する農地若しくは第十六条第一項の命令で定める農地につき自作農となるべき者又は当該農地につき所有権その他の権利を有する者が云々』と規定していることにかんがみるとその趣旨は第三条の規定によつて将来買収する農地につき将来自作農となるべき者を意味すると解すべきであるから前記三名はこの者に該当しないのである。従て右三名からした申請に基く本件附帯買収は違法である。」と附け加えて陳述し、なお原判決事実摘示中原告等の異議申立に対し内城田村農地委員会が同月二十三日異議却下の決定をしたとあるのは十月二十三日の誤りと訂正し又従前控訴人委員会が原告等の訴願に対し昭和二十四年二月二十八日に至る迄裁決をしなかつたのは無効であると主張したのは違法であると訂正主張しかつ本件買収対価が低廉に過ぎるとの主張はこれを請求原因とする趣意ではないと釈明した。

以上の外当事者双方の事実上の陳述は原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。(証拠省略)

三、理  由

昭和二十三年九月二十八日三重県度会郡内城田村農地委員会(以下村の委員会という)が自作農創設特別措置法(以下自創法という)第十五条に基き本件土地を農業用施設として買収する旨の計画を樹て被控訴人等がこれに対し異議申立をしたが同委員会は同年十月二十三日却下の決定をしたので被控訴人等はさらに控訴人三重県農地委員会(以下県の委員会という)に訴願をしたところ同委員会も昭和二十四年二月二十八日訴願却下の裁決をしたこと及び被控訴人等が適法の期間内に本件出訴に及んだことはすべて当事者間に争がない。

まず本件裁決が法定の期間内になされなかつたのは違法であるとの主張について考えると本件に適用せらるべき昭和二十四年改正前の自創法第十五条第二項によつて準用せられる第七条第五項の規定は訓示規定と解するを相当とするから同項所定の期間を遵守しなかつたとしてもこれがためにその裁決を違法ならしめるものではない。被控訴人の主張は採用に値しない。

次に本件買収計画は二重に行われているから違法であるとの被控訴人の主張はこれを排斥する。その理由は原判決にくわしく説明しているとおりであるからこれを引用する。〔但し原判決引用の証拠の中、証人竹内延平の証言(前記措信しない部分を除く)とあるのを、同証人の証言の一部と訂正する。〕

次に訴外中西秋蔵、小岸秀一、小岸乙吉は本件土地の買収申請をする資格を有しないとの主張につき考えるに、成立に争のない乙第一、二号証甲第八号証の一、二同第九、十号証原審証人竹内延平同中西秋蔵同小岸秀一同中田才助当審証人中西秋蔵の各証言並に原審検証の結果を合せ考えると本件溜池及び溝の受益地区内に位する元中西半三郎所有名義となつていた度会郡内城田村大字下久具千二百二十四番田四畝八歩は昭和二十二年十二月二日以前から中西秋蔵において又同地区内に位する元小岸大三所有にかゝる同所千三百四十番田三畝歩は同日前から小岸秀一において又同地区内に位する元青木孝雄所有名義となつていた同所五百四十三番田四畝一歩は同日前から小岸乙吉においてそれぞれ小作していたものであるところ右小作人等がこれを自作することを希望しておりかつ右農地の各所有者が同人等の希望に応じて快くその所有権を同人等に移転することを承認していたので村の委員会はその実現を斡旋指導し小作人等に最も有利かつ完全にその所有権を取得せしめるため通常の売買によらず右農地を政府において一旦買収し同人等に売渡す方法によることとし自創法(原規定)第三条第五項第六号に則つてその手続を進めた結果昭和二十二年十二月二日同人等三名に対しそれぞれ前記の農地を同法第十六条の規定に従つて売渡したことがうかがえる。原審証人小岸乙吉の証言中同人の小作地は通常の売買により所有権を取得した旨の部分はたやすく信用できない。その他右認定を左右するに足る証拠はない。

してみると同人等三名は自創法第三条の規定により買収した農地につき自作農となつた者といわねばならない。尤も本件に適用せられる昭和二十四年改正前の同法第十五条第一項には「第三条の規定により買収する農地若しくは第十六条第一項の命令で定める農地に就き自作農となるべき者又は当該農地につき所有権その他の権利を有する者が云々」と立言しているが右は被控訴人主張のように「将来買収する農地につき将来自作農となるべき者」のみを指すとは考えられず既に右第三条の規定により買収した農地につき自作農となつた者を含むと解すべきである。このことは昭和二十四年改正にかかる同法第十五条第一項において「同条の規定による農地の売渡を受けた日から一ケ年以内に」との文書をさし加えかつ昭和二十四年法律第二百十五号(農地調整法の一部を改正する等の法律)第十条によつてこの法律施行前に自創法第十六条の規定による農地の売渡を受けた者について右法律第二百十五号施行後一ケ年以内に買収申請をなし得べき旨の読み替え規定を設けた趣旨から見て洵に明白なことがらである。

よつて前記の三名は自創法第十五条第一項に掲げる者に該当する者として前記のとおり買収の上売渡をうけた農地の利用上必要な農業用施設を政府において買収すべき旨を申請する資格を有するものといわねばならない。

よつて被控訴人のこの点に関する主張も採用に値しない。

次に本件買収計画は被控訴人中の中村重助外六名から買収した土地を更に同人等を含む若干名に売渡すことに帰するから違法であるとの主張につき考えると右中村重助外六名が本件土地を敷地とする溜池及び溝の受益地区たる度会郡内城田村下久具に農地(約一町歩)を所有することは当事者間に争がなくかつ右七名が本件土地につき共有権(持分)を有することは弁論の全趣旨から控訴人の明に争わないところと認められるけれども数名が共有権を有する土地を買収してその数名を含む多数のものに売渡すことを特に自創法において禁止した規定は存しないのみならず本件土地の売渡は後段に説明するように右七名その他若干の者だけを対象として行われているのではなく結局度会郡内城田村下久具水利施設農業協同組合なる団体に対して売渡計画が樹てられたのであつてその間少しも不合理不自然なことはない。

よつてこの点に関する被控訴人の主張亦理由がない。

次に被控訴人は本件溜池及び溝を永年利用して来た内城田村下久具新田の所有者等は本件土地について地役権を有するから右土地につき所有権まで得なくともその利用に支障を来たすことはないにかかわらずその当然の義務たる弁米の支払を免れんとして本件附帯買収の申請に及んだのであるからそれは権利(申請権)の濫用である。従て村の委員会はその申請を相当と認めるべきでないと主張するもののようである。

よつて考えるに下久具新田の所有者等が本件土地を使用する権利(それが地役権であるかどうかは暫らく措く)を有すること及び或範囲の弁米支払義務を負担することは控訴人の明に争わないところであるけれども右下久具新田の所有者等が本件土地の使用権を有すればとてその買収申請を少しも妨げるものではない。というのは自創法第十五条第一項第二号において牧野宅地建物についてはむしろその使用の権利がある場合に限り買収する趣旨を明にしているのであるが同項第一号においてはこのような制約がないから同号所定の施設権利又は立木を買収するにはその使用の権利が無くても買収しうるのであつて使用権あるものの買収は当然可能である趣旨と解すべきであるからである。このことは同法施行令第二十四条第一号において使用収益を目的とする権利がある場合とその権利がない場合との両者につき規定されていることにかんがみると一点の疑がない。又被控訴人主張の弁米支払請求権の内容が正当なものであれば格別、その内容が後に説明するように耕作者の地位の安定農業生産力の発展農村における民主的傾向の促進等を理念とする自創法農地調整法等の精神に副わないものである以上本件附帯買収の申請がたとい右弁米の支払を免れんとする動機に出たものであつてもこれを以て権利の濫用とみるべきではない。

従つてこの点に関する被控訴人の主張も採用しえない。

次に被控訴人は自創法第十五条第一項第一号にいわゆる農業用施設とは施設そのものをいうのであつて土地そのものを含まない。仮りにこれを含むとするも同項第一号に掲げる一定の農地の利用上必要なものに限ること明である。しかるに本件買収の対象となつた本件土地は右の要件を充たすものでないからこれに対する買収計画は違法であると主張するもののようである。よつて考えると本件土地を敷地とする溜池及び溝は明治二年頃度会郡内城田村大字下久具新田の所有者等がその所有の田へ引水するために築造して今日迄利用して来たものであつて右加工によつて溜池及溝となつた土地そのものは依然被控訴人等の所有であつたことは成立に争のない甲第六号証により明白である。とすると本件土地は右溜池及び溝という形状において存するのであつてこれは潅漑流水のための水利施設というべきでありこれを農業用施設と解すべきことはほとんど疑を容れない。そして前段認定のとおり自創法第三条の規定により政府において買収の上中西秋蔵、小岸秀一、小岸乙吉三名に売渡された農地が右下具新田の区域内にあつてその農地の利用上右施設が必要であることは被控訴人等の明に争わないところと認められるから本件土地は同法第十五条第一項第一号の農業用施設に該当するものとして本件附帯買収の対象となりうるものといわねばならない。

よつてこの点に関する被控訴人の主張も理由がない。

又本件買収計画は成立に争のない乙第五、六号証によつて明なように本件溜池及び溝の敷地たる土地(所有権)だけを買収するために樹てられたものであり被控訴人主張のような地役権や弁米請求権を買収の対象としたものではないから(これらの権利が結局消滅するのは右土地買収の効果にすぎない。)この点に関する被控訴人の主張も採るに足らない。

又被控訴人は本件買収計画を県の委員会が承認したのは違法であると主張するけれども被控訴人は同委員会のした本件裁決の違法を主張してその取消を求めていること本訴請求の趣旨により明白であるからその裁決以後のことに属する右承認(自創法第八条参照)の適否は本件裁決そのものの効力になんらの影響がないからこれを判断する必要はない。

さて最後に前記中西秋蔵、小岸秀一、小岸乙吉三名からした本件附帯買収の申請を村の委員会において相当と認めた具体的の事情があるかどうかをしらべなければならない。

成立に争のない甲第二号証同第五、六号証同第十七号証の一乃至七乙第九、十号証真正に成立したと認められる乙第八号証及び原審証人竹内延平同浦田伊八当審証人小岸大三同中西秋蔵の各証言を合せ考えると本件土地を敷地とする溜池及び溝(以下本件水利施設という)の受益地区内にある度会郡内城田村下久具所在の農地約十町歩を所有し耕作する農民四十数名(以下下久具農民という)から本件土地を共有する同村上久具の住民たる被控訴人等十七名外一名(以下上久具住民という)に対し本件土地使用の対価として右水利施設築造の当初定められた玄米十八石五斗三升を毎年末弁米と称しその実小作料類似のものを納めることとなつていたが内城田村近隣部落に所在する水利施設の使用料に比して右弁米はきわめて高率であるところから永年に亘つて下久具農民と上久具住民両者間に紛議を生じていた有様であり、従前屡々村の委員会三重県農地課その他において両者の間に円満解決方の調停を試みたが上久具住民の容るゝところとならなかつたことが明でありかつ最近に至り右内城田村近隣部落所在の水利施設は利用者に解放せられ或はその利用対価の支払は農地改革による小作料相当の金納を以てせられることになつたに拘らず被控訴人等のみ依然八十年前に契約せられ現時の情勢に照し著しく不当となつた権益を頑として主張しいささかも譲歩しない事情が別件記録(当庁昭和二十二年(ネ)第一六号)により当裁判所に職務上顕著なことがらである。従つて事態をこのまゝ放置すれば前記三名を含む下久具農民は右高率弁米のため益々苦境に立つに至りその農業経営に不安定を来たすに対し被控訴人等は従前の封建色濃厚な地主的地位に安住することとなり自創法第一条の所期する目的に遠ざかることとならざるをえない。しかも成立に争のない乙第二号証原審における証人竹内延平の証言及び検証の結果により被控訴人等はその農業経営上その他において殆んど本件土地を必要不可欠のものとはしないことが推察せられるのである。こゝにおいてか自創法農地調整法等の目的精神に則り前記多数の下久具農民の地位の安定その農業生産力の発展内城田村における民主的傾向の促進を図るため本件土地を買収することが必要已むを得ない措置となるものといわねばならない。

そこで村の委員会は右乙第二号証に明白なとおり下久具農民の大部分の者が本件土地買収の上売渡をうけたいとの熱望に基き前記三名の申請に基いて本件買収計画を樹立したものと認められる。たとえ、本件農業用施設が相当大きなものであつて自作農となつた前記申請人等の土地が前記のように僅少であつたとしても前記のような事情の下においてはその申請を相当と認むべきである。而して成立に争のない乙第十二号証当審証人小岸大三の証言同証言により真正に成立したと認むべき乙第十一号証同第十三号乃至第十七号証を合せ考えると村の委員会は最近設立せられた控訴人主張のとおりの目的機構を具えた下久具水利施設農業協同組合(本件附帯買収申請者たる中西秋蔵、小岸秀一、小岸乙吉を含め下久具農民中約三十名がその組合員となつている。)に対し同組合が自創法第二十九条同法施行令第二十四条によつてしたその買受の申込に応じて同令同条第一号所定の指定を経て売渡計画を樹てたことが明であり、右組合の目的は本件水利施設その他の管理改善により組合員の農業生産力の発展と経済状態の向上を図るにあつてかつ下久具農民の大部分が既にこれに加入しており右水利施設の受益地区内の耕作農民は何人も自由にこれに加入しうるものであることが認められ、事実上も前記目的の実現に邁進しつゝあることを看取しうるのである。

被控訴人は右組合は同令同条第一号にいわゆる「これらの者の組識する農業協同組合」に当たらないと主張するけれどもこれらの者の組識する農業協同組合とは自創法第十六条の規定により農地の売渡をうけた者のみが組織する組合という意味ではなくこれ等の者の加入している組合(もとより組合員は本件水利施設を利用する耕作者であることは勿論である)と解するを相当とするから前記組合は本件土地の買受の申込をする資格に欠けるところがない。

なお本件買収計画の効力が訴を以て争われていてもそれだけではその訴の提起はその買収計画の執行を停止するものでないこと自創法第四十七条の二第二項によつて明白であるから爾後の手続を進めてもさしつかえないこというまでもない。

以上みてきたところからいつて村の委員会が本件附帯買収の申請を相当と認めたことは正当であるといわねばならないから右申請に基いて樹てた本件買収計画には結局なんらの違法がなく従てこれを維持した県の委員会の裁決にも違法がない。

とすれば被控訴人等の本訴請求は全部失当としてこれを棄却すべきものである。しかるに原判決が本訴請求中右裁決の取消を求める部分の請求を認容したのは不当であるからその部分を取消すべきものとし民事訴訟法第三百八十六条第九十六条第八十九条第九十三条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 中島奨 茶谷勇吉 白木伸)

(目録省略)

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